愛され秘書の結婚事情

「その辺にしておいて下さい。僕をネタにするのは構いませんが、彼女を侮辱するのは許しませんよ」

 普段ニコニコしている悠臣の、滅多に見せない威圧的な怒りの表情に、その場にいた全員がびっくりして口を噤んだ。

 そこに会長である隆盛が現れた。

 一番最後に会議室に来た彼は、元サーファーで海の男だった名残りで、今も褐色に焼けた肌をしている。

 スーツの上からでも鍛えられた胸筋が目立ち、甥と似た長身はそこにいるだけで迫力があった。

「えらい賑やかだが、何の話をしていたんだ?」

 隆盛に声を掛けられ、一人の幹部が「桐矢常務の恋人の話です」と答えた。

「ああ、俺も聞いた。受付前で面白いパフォーマンスをしたらしいな」

「パフォーマンスじゃありませんよ」

 悠臣が仏頂面でボヤき、伯父は不機嫌そうな甥を見て、楽しげに目を細めた。

「やっぱり、イイ女には男が群がるもんだなぁ。お前も大変だなぁ。婚約出来たからって呑気にしていると、トンビに油揚げをさらわれかねんぞ」

「そこは承知しています」

 悠臣はブスッとした顔で言った。

「それより早く議題に入りましょう。僕はさっさと家に帰りたいんです」

「月曜日からもうサボることを考えるなんて、困った男だな、お前」

「土日に仕事をしたのでね。塚川グループの社長は、今回の業務提携にかなり乗り気でしたよ」

「ふむ。西にツテがなかったうちとしても、塚川グループの協力は非常に有難い話だ。例の独占契約は五年で話はついたのか」

「ええ。これから幹部クラスで話し合って、細かな契約内容を煮詰めていく予定です」

「うむ。引き続き、こちらの代表はお前に任せる。サポートが欲しければいつでも言え」

 すでに会長と常務の顔になり、いつの間にか二人は、西日本進出という議題について会議を始めていた。
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