愛され秘書の結婚事情
夜、悠臣は先に七緒だけ帰宅させ、自分は一人で常務室に残っていた。
彼は少し考えた後で、携帯電話に登録済の央基の番号に、電話を掛けた。
相手はすぐに応えた。
「もしもし」
「……初めまして。桐矢悠臣と申します」
悠臣が名乗ると、電話の向こうでクスと笑う声がした。
「やっぱり電話して来たんだな」
「僕からの連絡が欲しくて、今日はあんなことをしたのでしょう?」
「まあな。それで?」
「何がです」
「七緒と別れる決心はついたか?」
今度は悠臣がクスと笑った。
「まさか。なぜ彼女と別れなければならないんです?」
チッと舌打ちし、央基は「諦めの悪い男だな」と言った。
「わからないのか。七緒は俺の女だ。昔からそうだった。あんたにあいつはもったいない」
「その台詞、そっくりお返しします」
悠臣も一歩も引かなかった。
「あなたに彼女はもったいない。もちろん僕にももったいないほどの女性だが、あなたよりは僕の方がマシだ」
「何っ……」
「今日のキス騒動で、そう確信しました」