愛され秘書の結婚事情
静かな声で諭されて、央基は絶望的な気持ちになった。
今、電話で話している女性は、本当に自分が知る七緒なのか、と思った。
声は彼女と同じだが、感情の見えないその話し方に、彼はいきなり彼女を遠い存在に感じた。
「もう、だめなのか。何をしても、どう頑張っても、俺達はやり直せないのか」
「うん」
七緒は表情を変えずに答えた。
「……私が東京に行くって決めて、央基がそれを止めなかった時に、私達は終わってしまったの」
直後、「うっ」と小さく呻いて、央基は肩を震わせた。
零れそうな涙を堪え、彼は「そうか」と言った。
「わかったよ。もう連絡しない。……二度と」
「…………」
今度の電話は、央基の方から切った。
電話を切ってから、彼はようやく涙を流した。
電話機を耳に当てて、七緒も無言で涙を流した。
けして結ばれない相手だが、彼女にとっても彼が大切な存在であることに変わりはなかった。
実の家族のように育ち、数え切れないほどの思い出を共有してきた相手だ。
けれど、心は寂しいと悲鳴を上げていたけれど、頭のどこかでは「これで良かった」と思う自分がいた。
寂しいけれど、この寂しさは人生で必要なものだと、そう思った。