愛され秘書の結婚事情
午前八時、会社に到着。
まず秘書室でのミーティングが三〇分ほど。そこで他役員のスケジュール確認も行う。
役員の出社時間はまちまちだが、七緒の“ボス”は特別な用がない限り、朝九時には出社してくる。
ボスの名は桐矢悠臣(とうやはるおみ)、40歳。
サブマリンの創始者であり会長の、海堂隆盛(かいどうたかもり)の妹の息子、つまり甥にあたる。
もともとサブマリンという会社は、隆盛が妻と妹夫婦、四人で経営していた海の家が始まりだった。
ゆえに株式会社として上場した当時、社長は隆盛、副社長は妹婿で、他役員も身内が多かった。
しかし副社長を務めていた妹婿の桐矢直毅(とうやなおき)氏が交通事故で早逝し、役員を務めていた親戚も高齢や病気を理由に引退したため、副社長の椅子は空席のまま、隆盛社長は初期から務めてくれていた者達を重用せざるを得なかった。
十二年前、アメリカの大学に行き、そのまま現地で就職・結婚した悠臣が、離婚を機に帰国。
社長は妹の息子である彼を、営業部課長の待遇で本社に迎えた。