愛され秘書の結婚事情
迷わず答えた七緒を、悠臣は複雑な表情で見返した。
「だけど親との約束だから、うちを辞めるんだ」
「……はい」
しかしそう答えた直後、七緒の目から一滴の涙が落ちた。
悠臣も驚いたが、もっと驚いたのは七緒自身だった。
ポツポツと、降り始めた小雨のようなリズムで、自分の目から勝手に雫が滴り落ちるのを、彼女は呆然と見つめていた。
悠臣が慌てて、自分のポケットチーフを差し出す。
七緒はそれを有り難く受け取り、しばらく無言で、震える瞼をそっと押さえていた。
「……大変失礼致しました」
短く詫びて、七緒はハンカチを外した。
その時にはもう、涙は完全に止まっていた。