愛され秘書の結婚事情

「お見苦しいところをお見せしました。どうか忘れて下さい」

「…………」

 悠臣は何も言わず、じっと七緒の顔を見つめていた。

 メイクは落ちていなかったが、泣き顔を晒した後の彼女は、どこかあどけなく幼く見えた。

「ハンカチは洗ってお返しします。……月曜日になりますが、よろしいでしょうか」

「いつでもいいよ」

 どこか不貞腐れた態度で、悠臣は言った。

 彼がこんな顔を見せるのは滅多にないことで、七緒は上司の前で無防備に泣いたことを悔やんだ。

(でもきっとこれで、思ったより使えないヤツだって思われたかも……。どうせ辞めるなら、そっちの方がいいのかな……)
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