愛され秘書の結婚事情
出来ればこの上司の前では、最後まで有能で使える部下の仮面を被っていたかったが、この一日でその仮面もすっかり剥ぎ取られてしまった、と七緒は思った。
古臭い実家のしきたりに逆らえず、結局親の言いなりになって結婚相手すら自分で見つけられない、そんな中途半端な人間なのだ、自分は。
そんな自虐的な嫌悪感に囚われて、七緒は芸術品のようなケーキの盛り合わせを黙々と食べた。
悠臣はすでにデザートを放棄して、行儀悪くテーブルに片肘を突き窓の外を見ていた。
彼が見つめる先にはレストランの中庭しかなく、淡いライトの光に照らされて、幾何学式庭園スタイルの整えられた庭木と花が美しく鎮座していた。
けれど悠臣の目は色形美しいそれらを越えて、遥か遠くを見つめているようだった。
七緒はデザートを食べながら、整った彼の横顔をチラと盗み見た。
そしてこの綺麗な顔を眺めながら仕事が出来るのも、あと二、三ヶ月くらいかな、と思った。