愛され秘書の結婚事情

「あぁああああ……」

 レストランで泣いたことも、その後ずっと落ち込んだ顔でいたことも、何もかもが恥ずかしくて情けなくて、「穴があったら入りたい」とはこういう気持ちを言うのかと、使い古されたフレーズをこの年になって体感する。

 下着の上にロングTシャツを羽織っただけの格好で、濡れた髪を乾かしながら、月曜日はどんな顔で出社しようと、しても仕方のない心配をする。

 昨日の悠臣は、かなり機嫌が悪そうに見えた。

 これまでずっと、上司の機嫌に一喜一憂する同僚を他人事の目で見て、いつも優しい桐矢常務の下で働ける自分は恵まれているなと思っていた。

「これまで散々目をかけてやったのに、裏切られた」なんてあの常務が考えるはずない、と思いつつ、しかしそれ以外に、彼が不機嫌になった理由が七緒には思いつかなかった。
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