愛され秘書の結婚事情

「ちょっと、口を開けて見せて。切れていないかな……」

 まだ夢見心地の七緒は、乞われるまま素直に口を開けた。

「良かった。中は傷ついていないみたいだ」

「でも口を動かすと、痛いです……」

「かなり思いきり良く叩いたからね」

 そう言って、悠臣は自然に彼女の前髪に触れた。

 常務の予想外の行動に驚いて、七緒はまた思考停止状態になった。

 仕事中は冷静沈着で有能な彼女だが、いかんせん恋愛に関しては経験値が低すぎて、当然こういったスキンシップにも慣れていない。
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