愛され秘書の結婚事情

 頬を冷やし始めて一〇分ほど過ぎたところで、悠臣はようやく彼女を解放した。

 当てていた保冷剤を冷凍庫に戻し、怪我の具合を確認する。

「うん、これなら大丈夫。大した跡にはならないよ。月曜に出勤する時も、ファンデーションで隠せるはずだ」

「……ありがとうございます」

 一応の礼を述べ、七緒は「怪我の手当にお詳しいなんて意外でした」と言った。

「ああ。高校大学とアメフト部だったからね。アメリカに行ったのだって、本場のアメフトが見たいっていうミーハーな動機だし」

「そうだったんですか」

「そう。あの頃は生傷が絶えなくてね。捻挫も打撲もしょっちゅうやってた」

「……意外です」

 独り言のように呟き、七緒はじっと、三年仕えた上司の顔を見た。
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