愛され秘書の結婚事情

「だけど僕は、年甲斐もなく恋に落ちてしまった。毎日会社で会う、一回りも年の離れた女性に」

 テーブルに両手を置き、悠臣は視線を天板に落として告白した。

「彼女の澄んだ眼差しと凛とした表情は、これまで出会ったどんな女性の顔より美しかった。その仕事への姿勢と細やかな気配りは、疲れた心と体にやる気と元気を与えてくれた。ときおり見せるはにかんだ笑顔から、きっと素顔はとても可愛らしい人なんだろうなと思った。美味しい物が大好きで、好物のチョコレートを食べてる時は、子供みたいに無邪気な笑顔になっていた。その顔が見たくて、自分で買ったチョコを取引先からの貰い物だと言って渡したこともある」

「えっ、嘘っ!」

 思わず素が出て叫んだ七緒を、悠臣はわずかに笑みを浮かべ見た。

「本当ですよ。それと僕が甘党だと周囲に吹聴しているのもね、スイーツ好きな秘書さんに毎日おやつを差し入れたいからです」

「嘘……」

(じゃ、ない……)

 知らなかった事実が次々と明るみになり、七緒は呆然と呟いた。

 だが茫とした頭でも、彼女の心は彼の言葉が真実だと告げていた。

 甘党だと言うわりには、自分から進んでそれらを口にしない。

 貰い物の菓子はいつも、箱ごと秘書室に差し入れする。数が少ない時は、七緒にだけこっそりくれる。

 スイーツに強いカフェをオープンする企画が出た時も、視察と称して七緒を同行させ、主に彼女に味見役をさせた。
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