愛され秘書の結婚事情

 なぜか急に切なくなって、七緒はポロポロと涙を零した。

「なぜ、教えてくださらなかったんですか……」

 泣きながら七緒は、上司への恨み言を口にした。

「そんな風に思っていて下さったなんて、私は全然知らなかった。常務の優しさの下に隠れた思いに、全然気付けなかった……」

「年を取るとね、嘘と誤魔化しが上手くなるんです」

 年上ぶった口調で悠臣は言った。

 保冷剤を包んでいたハンカチを渡されて、七緒はそれで零れる雫を受け止めた。

 昨日からずっと、自分はこの人の前で泣き通しだなと思いつつも、感情と涙が溢れて来るのを止められなかった。
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