愛され秘書の結婚事情

「……随分と手慣れていらっしゃいますね」

 家事の手際が良すぎる上司に意外そうな視線を向け、七緒は独り言のように言った。

 悠臣はニコニコしながら、「何しろ男やもめ歴十二年だからね。マンションにはたまにハウスキーパーさんを呼ぶけど、家事は嫌いじゃないから、気分転換に料理や掃除はするんだ」と言った。

「そうですか……」

 手持ち無沙汰になった七緒は、「では私は、コーヒーを淹れます。ドリップバッグの簡単な物ですが、桐矢さんもそちらでよろしいでしょうか」と聞いた。

 悠臣はフライパン返しでパンの焼き具合を確認しつつ、「よろしいですよ」と答えた。

 その返事に、七緒はまたムッとした。
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