愛され秘書の結婚事情
「嫌なら止めるよ。あなたが嫌がることはしないと誓ったから。だから嫌ならそう言って。拒まれたからと言って、僕があなたを嫌うことはない」
「いえあの、その……」
(ど、どうしたらいいの……)
しかし七緒が逡巡する間に、先に悠臣の方から離れた。
「おっと危ない。パンを焦がすところだった」
彼は慌ててフライパンに乗せていたパンをひっくり返し、美味しそうな焦げ目がついたのを見て、「うん、いい感じだ」と満足げに頷いた。
(な、なんだったの、今のは……)
一人置いてけぼりを食らった気分の七緒は、上機嫌に料理する男を呆然と見つめた。
そして彼がすぐに離れてしまったことを、どこかで寂しいと感じていた。