愛され秘書の結婚事情

「嫌なら止めるよ。あなたが嫌がることはしないと誓ったから。だから嫌ならそう言って。拒まれたからと言って、僕があなたを嫌うことはない」

「いえあの、その……」

(ど、どうしたらいいの……)

 しかし七緒が逡巡する間に、先に悠臣の方から離れた。

「おっと危ない。パンを焦がすところだった」

 彼は慌ててフライパンに乗せていたパンをひっくり返し、美味しそうな焦げ目がついたのを見て、「うん、いい感じだ」と満足げに頷いた。

(な、なんだったの、今のは……)

 一人置いてけぼりを食らった気分の七緒は、上機嫌に料理する男を呆然と見つめた。

 そして彼がすぐに離れてしまったことを、どこかで寂しいと感じていた。
< 80 / 299 >

この作品をシェア

pagetop