愛され秘書の結婚事情

 けれど悠臣の方も、彼女の存在に救われたと言う。

 ―― 彼女の澄んだ眼差しと凛とした表情は、これまで出会ったどんな女性の顔より美しかった。その仕事への姿勢と細やかな気配りは、疲れた心と体にやる気と元気を与えてくれた。ときおり見せるはにかんだ笑顔から、きっと素顔はとても可愛らしい人なんだろうなと思った。

 今更ながら、彼が明かしてくれた自分への思いが蘇り、七緒は「ひゃああ……」と悲鳴を上げ、両手で顔を覆った。

 鏡を見なくても、自分が今どれだけ赤い顔をしているかがわかった。

 心臓が再び大きく動悸を始め、指先がジンジン痺れて、深く甘い吐息が洩れる。

(私、常務のことが好きなの……?)

 七緒は自問自答した。

 だが自分ではわからなかった。
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