愛され秘書の結婚事情

 人として尊敬している。魅力的な男性だとも思っている。

 だがあまりに立場が違い、自分とは住む世界が違う人だも思っている。

 もし彼のプロポーズを受けるなら、自分も“あちら側”の住人になるということだ。

(出来るの? 私に。何も秀でたところのない私に、本当に彼の伴侶が務まるの?)

 田舎者で、美人でもない、特別な才能も何も持っていない。そんな自分が。

 何より彼女が恐れるのは、自分を妻にすることで、悠臣までが世間の嘲笑の的になるのではないか、という不安。

 生真面目な彼女らしい悩みではあったが、けれど今日、悠臣の過去を聞いたことで、そんな葛藤は彼にとって何の意味も持たないこともわかっていた。
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