愛され秘書の結婚事情

 前妻との辛い過去を話す彼を見て、七緒の中にこれまでにない感情が湧き上がったのも事実だ。

 あの時、確かに、彼女は彼を抱きしめたいと思った。

 十以上年上の男性で、職場の上司である彼を、慰めてあげたい、癒やしてあげたいと無意識に感じた。

 そして七緒にそうされることを、彼も望んでいるように思った。

 ただそれを実行に移すには、彼女には勇気も覚悟も足りなかった。

 自分から手を伸ばして彼に触れたら、そこから先に進んでしまったら、もう後戻りは出来ない。そう思った。

「私……どうすればいいの」

 どれほど悩んでも答えは出ず、結局その答えを知るのは七緒自身の心でしかないのだが、今はその心すら見えなかった。

 このままずっとテーブルに突っ伏しているわけにもいかず、七緒は気怠く体を起こした。

 そしてとりあえず、目先の問題から片付けることにした。

 洗濯機のスイッチを入れるため、彼女は脱衣所に向かった。
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