愛され秘書の結婚事情

 今の七緒は、悠臣のこと、自分の将来のこと、二人の未来のこと、を考え過ぎて、頭も心も飽和状態にあった。

(……やっぱり、断ろう)

 自宅玄関の三和土に立ち、彼女はそう決心した。

 他の女性達が聞けば、なんて勿体ないことをとなじられそうな選択だが、やはり七緒には、悠臣の妻になる覚悟は持てなかった。

 親の言いなりになって、見合い結婚という道もそれはそれで苦労の多そうな選択ではあったが、周囲に波風を立てずに済む、という意味では一番無難な道でもあった。

 どうしても耐えられないような相手をあてがわれたら、その時は勘当覚悟で家出してやろう、とも思っていた。
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