愛され秘書の結婚事情

(なんて答えたらいいの。どう答えるのが正解なの……)

 昨日一昨日と散々悩んだ問題がぶり返し、頭痛までしてきて、七緒は思わず額を押さえた。

 外に出ると風は強いものの、雲一つない快晴だった。

(ああもう……どうしたらいいの……)

 自分の心が見えず、正解もわからない。

 悠臣に会うのが怖かった。

 プロポーズを受けるにしろ断るにしろ、どちらも辛い結果になりそうで、どちらも選びたくなかった。

 駅前の信号が青に変わり、待っていた通行人が一斉に足を踏み出す。

 七緒は少し遅れて、まるで熱射病にかかった者のように、フラフラと横断歩道に出た。

 大勢が行き交うその歩道に、いきなり信号無視の大型バイクが突っ込んで来た。

 誰かが「危ない!」と叫ぶ。

 別の誰かが「きゃあ!」と高い悲鳴を上げた。

 その声でようやく、七緒は顔を上げた。

 直後、「バイクが人を撥ねたぞー!」と、また別の誰かが叫んだ。

 早朝の駅前交差点は、突如騒然とした空気に包まれた。
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