愛され秘書の結婚事情
第三章「素直な思い」
1.
すぅー……。はぁー……。
大きな深呼吸をして、悠臣は飽きるほど見慣れた自社ビルを、神妙な顔で見上げた。
今日の彼はダークグレイのスーツに落ち着いたブルーグレイのシャツを合わせ、ネクタイはシルバーにネイビーのラインが入ったデザインだった。
めずらしく落ち着いた色合いのファッションにしたのは、自分自身を落ち着かせたかったからだ。
土曜日のプロポーズから二日経ち、今日はその返事を受け取る予定だが、彼はすでに断られる覚悟を決めていた。
彼は七緒以上に、彼女のことを知っていた。
会社の上司と部下。幹部とその秘書。という立場だけでも、彼女がこの交際に難色を示すだろうことは想像できた。
さらに二人の年齢差。親子ほどとは言わないが、まず自分が彼女の恋愛対象になるとは思っていない。