いつかあなたに会えたら
グラスの中でストローを回すと、カランという音を立てて氷のタワーが崩れた。
その音がよく聞こえる程に、私たちの間には重い沈黙が流れている。
「別れようか」
私からそう切り出すと、彼は暗い顔を上げた。
目の前で暗い目をしている彼は、私の彼氏。
今はまだ、彼氏。
「なんで?」
そう問い返してきたが、本当に疑問に思っている訳ではないだろう。
お互いにやりたい仕事のために遠距離を選んだのだから、結局未来なんてなかった。
それに、ここ最近はずっと私がイライラして彼がだんまりで、そんな日が続いていた。
一言しか喋っていないのに、喉がカラカラになったような気がしてアイスティーを飲み干した。
「私に飽きたと思うし」と思ってもないことを言い放ち、笑ってみる。
智史は一瞬ムッとした顔をして、私の方を見上げた。
「俺は、」
「いや、いい。もう終わりにしよ」
私は彼の言葉を遮って、席を立とうとすると彼に腕をつかまれた。
「送ってくよ」
別れたくないとは言わないのか、と勝手なことを思って心の中で苦笑する。
「いや、一人で帰るよ」
「送るよ」
「いいってば」
「送るって」
「大丈夫、一人で帰れる」
「最後くらい!…送らせてくれよ」
智史の大声に一瞬、店中の視線がこちらに集中するのが分かった。
居心地が悪くなったここから一刻も早く抜け出したいような顔を浮かべる智史を見つめた。
「……分かったよ。じゃあ、お願いします」
私は彼に一度手渡した、私専用のヘルメットを半ば奪い取るように彼から受け取り、先を歩いた。
もう、終わりなんだ。
私は彼のバイクにまたがり、しぶしぶ彼の腰に腕を回す。
「しっかり捕まってて」
智史はそう言うと走り出した。
順調だった時は、よく二人乗りをして出かけたっけ。
嬉しいことがあった時、悩んで行き詰まった時、仲直りした時、何でもない時も。
きっともう、こんな風彼を抱き締めることは二度とない。
そう思うと、とてつもなく寂しくなった。
「ねぇ、智史……私たちどこで間違っちゃったんだろうね」
どうしようもない気持ちを追い出したくて問いかける。
「 」
彼は何か返事をしたようだったが、風が強くて聞こえなかった。
「え、何て言ったの?」
「 」
答えは聞こえない。
「智史、私やっぱり……」
私が言い切らないうちに、智史の背中越しに急に世界が眩しくなった。
そして、目の前のトラックが迫っていると気付いて、激しい衝撃を感じて目の前が真っ暗になった。
どれくらい目を閉じていたか分からない。
ただ視界が霞んでいて、左頬にアスファルトの冷たさを感じる。
周りの声も遠いながらに騒々しいから、それほど時間は経っていないはずだ。
身体中が熱い。痛みはあまり感じなかった。
それでもまた意識が遠退きそうになる。
智史は?
そう思った瞬間、身体は熱いままなのに背筋がすっと冷たくなるような気がした。
どこにいるの?
動かない体で目だけを動かして探すと、頭がどろっと生暖かいもので染まる。
霞む視線の先に彼が見える。
「 」
唇が動いているのが見えるけど、何と言っているかが分からない。
目を凝らした瞬間、人影に視界が遮断された。
「この子は生きてるぞ!」という声が頭の上から聞こえてきたが、それを消し去る勢いで誰かが叫んだ。
「こっちはだめだ…!」
智史……。
姿の見えない彼の方に手をのばす。
人混みの隙間から見える、こちらに伸びている彼の指先に触れようとした瞬間、私は意識を失った。
その音がよく聞こえる程に、私たちの間には重い沈黙が流れている。
「別れようか」
私からそう切り出すと、彼は暗い顔を上げた。
目の前で暗い目をしている彼は、私の彼氏。
今はまだ、彼氏。
「なんで?」
そう問い返してきたが、本当に疑問に思っている訳ではないだろう。
お互いにやりたい仕事のために遠距離を選んだのだから、結局未来なんてなかった。
それに、ここ最近はずっと私がイライラして彼がだんまりで、そんな日が続いていた。
一言しか喋っていないのに、喉がカラカラになったような気がしてアイスティーを飲み干した。
「私に飽きたと思うし」と思ってもないことを言い放ち、笑ってみる。
智史は一瞬ムッとした顔をして、私の方を見上げた。
「俺は、」
「いや、いい。もう終わりにしよ」
私は彼の言葉を遮って、席を立とうとすると彼に腕をつかまれた。
「送ってくよ」
別れたくないとは言わないのか、と勝手なことを思って心の中で苦笑する。
「いや、一人で帰るよ」
「送るよ」
「いいってば」
「送るって」
「大丈夫、一人で帰れる」
「最後くらい!…送らせてくれよ」
智史の大声に一瞬、店中の視線がこちらに集中するのが分かった。
居心地が悪くなったここから一刻も早く抜け出したいような顔を浮かべる智史を見つめた。
「……分かったよ。じゃあ、お願いします」
私は彼に一度手渡した、私専用のヘルメットを半ば奪い取るように彼から受け取り、先を歩いた。
もう、終わりなんだ。
私は彼のバイクにまたがり、しぶしぶ彼の腰に腕を回す。
「しっかり捕まってて」
智史はそう言うと走り出した。
順調だった時は、よく二人乗りをして出かけたっけ。
嬉しいことがあった時、悩んで行き詰まった時、仲直りした時、何でもない時も。
きっともう、こんな風彼を抱き締めることは二度とない。
そう思うと、とてつもなく寂しくなった。
「ねぇ、智史……私たちどこで間違っちゃったんだろうね」
どうしようもない気持ちを追い出したくて問いかける。
「 」
彼は何か返事をしたようだったが、風が強くて聞こえなかった。
「え、何て言ったの?」
「 」
答えは聞こえない。
「智史、私やっぱり……」
私が言い切らないうちに、智史の背中越しに急に世界が眩しくなった。
そして、目の前のトラックが迫っていると気付いて、激しい衝撃を感じて目の前が真っ暗になった。
どれくらい目を閉じていたか分からない。
ただ視界が霞んでいて、左頬にアスファルトの冷たさを感じる。
周りの声も遠いながらに騒々しいから、それほど時間は経っていないはずだ。
身体中が熱い。痛みはあまり感じなかった。
それでもまた意識が遠退きそうになる。
智史は?
そう思った瞬間、身体は熱いままなのに背筋がすっと冷たくなるような気がした。
どこにいるの?
動かない体で目だけを動かして探すと、頭がどろっと生暖かいもので染まる。
霞む視線の先に彼が見える。
「 」
唇が動いているのが見えるけど、何と言っているかが分からない。
目を凝らした瞬間、人影に視界が遮断された。
「この子は生きてるぞ!」という声が頭の上から聞こえてきたが、それを消し去る勢いで誰かが叫んだ。
「こっちはだめだ…!」
智史……。
姿の見えない彼の方に手をのばす。
人混みの隙間から見える、こちらに伸びている彼の指先に触れようとした瞬間、私は意識を失った。