いつかあなたに会えたら
「まどか?」
その声に私はビクッとして顔を上げる。
見慣れた顔が心配そうに私を見つめていた。
「どうした?」
え、今までのは、夢……?
動揺をごまかすようにグラスの中でストローを回すと、カランという音を立てて氷のタワーが崩れた。
「あ、うん、なんでもない」
悪い夢を見ていた気がする。
そう答えると、智史は俯いてしまった。
「話戻すけどさ、なんで?」
あ、夢と同じ流れだ。
智史に夢の話をしようか悩んだが、それを話したところでどういう意図に捉えられるか、自分でも分かりかねて口をつぐんだ。
そしてしばらくしてまた彼は「なんで」と言った。
「だって私たちしばらくこんな感じだったじゃない。いい思い出になるなーって思えるうちに終わりにしようよ」
一気にそこまで口にすると、喉がカラカラになったような気がしてアイスティーを飲み干した。
初めて口にしたはずなのに、まるで台詞のような言葉だと感じた。
「智史だって、別れたいって思ってたでしょ?」
智史は一瞬ムッとした顔をして、私の方を見上げた。
このあと彼は何かを言いかけたけれど、私が遮った。夢の中では。
「俺は、」
私は急に彼が何を言いかけたのか気になって、黙って答えを待ったが彼はそれきり話さなかった。
「……いや、いい。送ってくよ」
同じ流れだ。
急激に不安が募る。
このあと、私は送られていくのではないか。
そして、事故に遭う。
「いや、一人で帰るよ」
「送るよ」
「いいってば」
「送るって」
「大丈夫、一人で帰れる!」
「最後くらい!…送らせてくれよ」
智史の大声に一瞬、店中の視線がこちらに集中するのが分かった。
急に居心地が悪くなったここから一刻も早く抜け出したいような顔を浮かべる智史を見つめた。
まさか、正夢になる訳がない。
「分かったよ。じゃあ、お願いします」
私は彼に一度手渡した、私専用のヘルメットを彼から受け取り、先を歩いた。
私は彼のバイクにまたがり、彼の腰に腕を回す。
さっきの夢を思い出すと、今の温もりが愛しく感じて少し力がこもってしまう。
「……じゃ、行くよ」
智史は私が纏う思念を知ってか知らずか振り払うようにそう言うと走り出した。
「ねぇ」
問いかけようとして、ふと考える。
夢で事故になったのは、私が話しかけたからだ。
何も言わないでおこう。何か言うにしても、着いてから目を見て話そう。
「 」
ふいに彼は何か言ったが、風が強くて聞こえなかった。
私は怖くなって何も答えなかった。
「 」
聞こえないと判断したのか、智史はもう一度何か口にした。
智史の背中越しに急に世界が眩しくなった。
そして、目の前のトラックが迫っていると気付いて、激しい衝撃を感じて目の前が真っ暗になった。
夢と一緒だ。
ただ視界が霞んでいて、左頬にアスファルトの冷たさを感じる。
身体中が熱くて痛みはあまり感じない。
それもさっきと同じ展開だ。
じゃあ、智史は……。
動かない体で目だけを動かして夢の中と同じ方向を見る。頭がどろっと生暖かく感じるのはおそらく血だろう。
霞む視線の先に彼が見える。
このあと、誰かが声を上げるのか。
「この子は生きてるぞ!」という声が頭の上から聞こえてきて的中したことに絶望する。
じゃあ、智史は……。
「こっちはだめだ…!」
ぴくりとも動かない彼の方に手をのばす。
彼のこちらに伸びている指先に触れようとした瞬間、私は意識を失った。
その声に私はビクッとして顔を上げる。
見慣れた顔が心配そうに私を見つめていた。
「どうした?」
え、今までのは、夢……?
動揺をごまかすようにグラスの中でストローを回すと、カランという音を立てて氷のタワーが崩れた。
「あ、うん、なんでもない」
悪い夢を見ていた気がする。
そう答えると、智史は俯いてしまった。
「話戻すけどさ、なんで?」
あ、夢と同じ流れだ。
智史に夢の話をしようか悩んだが、それを話したところでどういう意図に捉えられるか、自分でも分かりかねて口をつぐんだ。
そしてしばらくしてまた彼は「なんで」と言った。
「だって私たちしばらくこんな感じだったじゃない。いい思い出になるなーって思えるうちに終わりにしようよ」
一気にそこまで口にすると、喉がカラカラになったような気がしてアイスティーを飲み干した。
初めて口にしたはずなのに、まるで台詞のような言葉だと感じた。
「智史だって、別れたいって思ってたでしょ?」
智史は一瞬ムッとした顔をして、私の方を見上げた。
このあと彼は何かを言いかけたけれど、私が遮った。夢の中では。
「俺は、」
私は急に彼が何を言いかけたのか気になって、黙って答えを待ったが彼はそれきり話さなかった。
「……いや、いい。送ってくよ」
同じ流れだ。
急激に不安が募る。
このあと、私は送られていくのではないか。
そして、事故に遭う。
「いや、一人で帰るよ」
「送るよ」
「いいってば」
「送るって」
「大丈夫、一人で帰れる!」
「最後くらい!…送らせてくれよ」
智史の大声に一瞬、店中の視線がこちらに集中するのが分かった。
急に居心地が悪くなったここから一刻も早く抜け出したいような顔を浮かべる智史を見つめた。
まさか、正夢になる訳がない。
「分かったよ。じゃあ、お願いします」
私は彼に一度手渡した、私専用のヘルメットを彼から受け取り、先を歩いた。
私は彼のバイクにまたがり、彼の腰に腕を回す。
さっきの夢を思い出すと、今の温もりが愛しく感じて少し力がこもってしまう。
「……じゃ、行くよ」
智史は私が纏う思念を知ってか知らずか振り払うようにそう言うと走り出した。
「ねぇ」
問いかけようとして、ふと考える。
夢で事故になったのは、私が話しかけたからだ。
何も言わないでおこう。何か言うにしても、着いてから目を見て話そう。
「 」
ふいに彼は何か言ったが、風が強くて聞こえなかった。
私は怖くなって何も答えなかった。
「 」
聞こえないと判断したのか、智史はもう一度何か口にした。
智史の背中越しに急に世界が眩しくなった。
そして、目の前のトラックが迫っていると気付いて、激しい衝撃を感じて目の前が真っ暗になった。
夢と一緒だ。
ただ視界が霞んでいて、左頬にアスファルトの冷たさを感じる。
身体中が熱くて痛みはあまり感じない。
それもさっきと同じ展開だ。
じゃあ、智史は……。
動かない体で目だけを動かして夢の中と同じ方向を見る。頭がどろっと生暖かく感じるのはおそらく血だろう。
霞む視線の先に彼が見える。
このあと、誰かが声を上げるのか。
「この子は生きてるぞ!」という声が頭の上から聞こえてきて的中したことに絶望する。
じゃあ、智史は……。
「こっちはだめだ…!」
ぴくりとも動かない彼の方に手をのばす。
彼のこちらに伸びている指先に触れようとした瞬間、私は意識を失った。