いつかあなたに会えたら
「まどか?」
その声に私は顔を上げる。
心配そうに私を見つめている智史を見て、涙が溢れそうになる。
またこの場面だ。戻れた。
安堵でその場に突っ伏してしまいそうになる。
今までのは夢かもしれない。
それでも、神様がチャンスを与えてくれたのだと思ってしまう。
「どうした?」
グラスの中でストローを回そうとして、思いとどまる。
「なんでもないよ」
そう答えると、智史は俯いてしまった。
「なんで」
夢で起きた流れを回避しなくてはいけない。
「話変えて申し訳ないんだけど……さっき、すごいリアルな悪夢を見た。このあと、二人でバイクに乗って事故に遭う夢」
顔あげた彼は怪訝そうにしている。
それもそうだ。こんな真剣な話の途中で夢の話を始めるのだから。
「……事故に遭った?二人で?」
彼の声色から戸惑いが感じられて、私は苦笑いをした。
夢だって自分が死んだ話を聞くのは嬉しいものではないと思い、それ以上は言わなかった。
氷が溶けてカランという音を立てて氷のタワーが崩れた。不安が増幅していく。
「だから、ここで解散しよう。私は事故に遭いたくないし。智史も、今日は徒歩で帰ったら?」
ゆっくりと話したのに、喉がカラカラになったような気がしてアイスティーを飲み干した。
「いや、俺はバイクで帰るよ」
そう言って彼は黙りこんだ。
「俺は、」と話し出すのを待ったが、何も言い出さないまま立ち上がった。
「智史」
私は半ば悲鳴のように智史を呼んだ。
驚いた顔で智史は私を見つめる。
「何?」
「いや、あの、何か私に言いたいことあったりする……?」
私の窺うような視線に、彼は苦笑した。
「いや、もういいんだ」
もう、ということは何かあったはずだ。
焦燥感に駆られて、彼の袖をつかむ。
「言ってよ」
「いいって」
「聞きたいの」
「今までそんなことなかったじゃないか」
「そうだよね、ごめん……」
私は彼の袖から手を離して、呟いた。
そうだ、距離という障害が問題なんじゃない。
私たちの気持ちが離れていたのだ。
彼の気持ちを無理強いして聞く権利はない。
「じゃあ私、先に帰るね」
私は彼のイスにかかっている私専用のヘルメットを横目に、先にカフェを出る。
「今までありがとう」
あっけない終わり方になってしまったけど、どこかすっきりしていた。
どこかで彼が生きているだけでいい。
「まどか!」
後ろから聞き覚えのある優しい低い声が聞こえてきて、私は反射的に振り向いた。
振り向ききる前に耳をつんざくようなブレーキ音が響いた。
そして、彼が血だらけで倒れていた。
「智史……!」
私は智史の横に座り込んで、手を握った。
彼は私の顔をじっと見つめて、口をゆっくりと開いた。
「 」
聞こえない。どんなに耳を済ませても聞こえない。
私が事故に遭わなくなっただけではないか。
それじゃ意味がないのに。
「ちょっと君、どいて!」
私は駆けつけた救急隊員に引き剥がされて、歩道に呆然と座り込んだ。
「だめだ…!」
野次馬の悲痛な叫びを聞いて、私は喉が裂けそうな程大声で彼の名前を叫んだ。
その声に私は顔を上げる。
心配そうに私を見つめている智史を見て、涙が溢れそうになる。
またこの場面だ。戻れた。
安堵でその場に突っ伏してしまいそうになる。
今までのは夢かもしれない。
それでも、神様がチャンスを与えてくれたのだと思ってしまう。
「どうした?」
グラスの中でストローを回そうとして、思いとどまる。
「なんでもないよ」
そう答えると、智史は俯いてしまった。
「なんで」
夢で起きた流れを回避しなくてはいけない。
「話変えて申し訳ないんだけど……さっき、すごいリアルな悪夢を見た。このあと、二人でバイクに乗って事故に遭う夢」
顔あげた彼は怪訝そうにしている。
それもそうだ。こんな真剣な話の途中で夢の話を始めるのだから。
「……事故に遭った?二人で?」
彼の声色から戸惑いが感じられて、私は苦笑いをした。
夢だって自分が死んだ話を聞くのは嬉しいものではないと思い、それ以上は言わなかった。
氷が溶けてカランという音を立てて氷のタワーが崩れた。不安が増幅していく。
「だから、ここで解散しよう。私は事故に遭いたくないし。智史も、今日は徒歩で帰ったら?」
ゆっくりと話したのに、喉がカラカラになったような気がしてアイスティーを飲み干した。
「いや、俺はバイクで帰るよ」
そう言って彼は黙りこんだ。
「俺は、」と話し出すのを待ったが、何も言い出さないまま立ち上がった。
「智史」
私は半ば悲鳴のように智史を呼んだ。
驚いた顔で智史は私を見つめる。
「何?」
「いや、あの、何か私に言いたいことあったりする……?」
私の窺うような視線に、彼は苦笑した。
「いや、もういいんだ」
もう、ということは何かあったはずだ。
焦燥感に駆られて、彼の袖をつかむ。
「言ってよ」
「いいって」
「聞きたいの」
「今までそんなことなかったじゃないか」
「そうだよね、ごめん……」
私は彼の袖から手を離して、呟いた。
そうだ、距離という障害が問題なんじゃない。
私たちの気持ちが離れていたのだ。
彼の気持ちを無理強いして聞く権利はない。
「じゃあ私、先に帰るね」
私は彼のイスにかかっている私専用のヘルメットを横目に、先にカフェを出る。
「今までありがとう」
あっけない終わり方になってしまったけど、どこかすっきりしていた。
どこかで彼が生きているだけでいい。
「まどか!」
後ろから聞き覚えのある優しい低い声が聞こえてきて、私は反射的に振り向いた。
振り向ききる前に耳をつんざくようなブレーキ音が響いた。
そして、彼が血だらけで倒れていた。
「智史……!」
私は智史の横に座り込んで、手を握った。
彼は私の顔をじっと見つめて、口をゆっくりと開いた。
「 」
聞こえない。どんなに耳を済ませても聞こえない。
私が事故に遭わなくなっただけではないか。
それじゃ意味がないのに。
「ちょっと君、どいて!」
私は駆けつけた救急隊員に引き剥がされて、歩道に呆然と座り込んだ。
「だめだ…!」
野次馬の悲痛な叫びを聞いて、私は喉が裂けそうな程大声で彼の名前を叫んだ。