悪役令嬢になりきれませんの。
視察(?)に来ただけなのに……3令嬢
王妃殿下に席を勧められ、同じテーブルについてお話をしていれば、デコられたヒロインがカナルに連れられ戻ってきた……彼女は驚くことに、王妃殿下がいると言うのに挨拶もなくただ突っ立っている。そんな、ヒロインにオホホホホと扇子で口元を隠し笑っているお母様と王妃殿下にひきつり笑いしかできない私……
「さぁ!ワタクシが美味しいか美味しくないか、試食してあげますから持って来なさい!」
「え……えぇ、えぇ。ラルラ、持ってきて」
王妃殿下を無視してどっしりと椅子に座り出されたデザートを食べ始める……いつの間にか新たなデザートを注文し、それを食しながらも王妃殿下と両親が何やらコソコソとお話している……
たしか、王太子ルートでは王妃殿下とヒロインは仲良くなるはず……だったのだが……未来の王妃とかと言いながら王妃殿下と仲良くする気もないように見える……
ま、まさか……ゲームの流れ的に数ヶ月後には仲良くなるのかしら?ならば、私も……悪役令嬢に!?なんて思っていれば、ヒロインの手に握られていたフォークがバンッ!!とテーブルに叩きつけられる……そうかと思えば、顔面に冷たい水がかけられ………え?
「なんなのこれ!!こんなの食べられたものじゃないわ!!こんなの食べらされる貴族の人達が可哀想よ!!こんなので、700円もするなんて!!ぼったくりも程があるわね!!」
ヒロインの言葉と私の髪から滴る雫にビチャビチャの服を見てザワつくお客さん達……お母様の小さな小さな悲鳴が耳に届く……私はキョトンとしてヒロインを見つめていれば、あることないこと言って騒いでる……
「こんな甘いものばかり食べていたら太って、病気になっちゃうわ!!」
何を言うか!!体に悪いだと!?砂糖はカロリーゼロじゃ!!この世界に、いや!我が素晴らしい領土にたまたまあったのを使ったカロリーゼロの砂糖じゃ!!バカにするでねぇー!!カロリーゼロって、普通の砂糖より甘く感じるんだぞコノヤローーーー!!
「あら、ご存知なくって?我が領では砂糖の代わりに体に優しい果物を使っているのよ?お父様の研究員達に調べてもらえば糖分は全く含まれておらず、なのにすっごくあまいんですの。それに、その果物ったら……美容にもお通じにもいいんですのよ?それに、太りにくい成分も含まれており、お茶会には必須のお茶請けにピッタリのこのケーキにも使っておりますの……」
そう言った私に、ご婦人達が持ち帰りができるか聞いているが……ここはこの場で食べる専用……それを聞いてガックリするご婦人達を見ながら、宣伝できて心の中でガッツポーズ。こんど、手軽に持ち帰れるケーキ屋さんを立てるのもいいかもしれない。なんて、思っていれば小さなつぶやき声が聞こえてくる。
「……この世界に……そんなものが存在するの……っ……」
「それに、ご存知ないのですか?ここが……その……」
言いにくくてお母様達をちらっと見れば、お母様と王妃殿下がニコニコと圧を感じさせる笑顔で頷いているのが見える……わたしは意を決してヒロインを見る。
「ここが、この国の王妃殿下、シャルル・アルファーナ王妃殿下にご贔屓してもらっているカフェだということを……」
私の言葉を聞いてヒロインの顔が歪む……そうかと思えば、今気づいたのか私の背後を見て顔を真っ青にする。
「まさか、ユーレライ商会のご令嬢なる貴女がしらないなんて……言いませんわよね?ここに来る、一般のお客様でもご存知ですわよ?」
そう言ったらヒロインは悪役令嬢ビックリなほどの高笑いをして立ち上がる……そうかと思えば……出入口に一直線で走り……覚えてなさい!!と叫んで帰っていった……
「なんだったのかしらね?まるで負け犬のように逃げて行きましたわよ?」
ホホホ……と、笑うお母様に王妃殿下が立ち上がる……そうかと思えば、素晴らしいですわ!!ぜひ我が城にもその果物を輸入して!との事で……特別にお城宛に配達してもらうことになった。
「そうだわ!シャルネラちゃん!カフェのスタッフ達を紹介するわね?その後に、2階のスタッフよ!」
そう言って、カナルと数人のスタッフが歩いてくる。
「こちらがホール担当、他に数名いらっしゃいますが、本日出勤の五人です。キメラ、シャラル、ツーゴング、リモルネ、アラパス、です。そのうちの2人はシャルの子です私どもが勝手に判断しましたが、よろしかったですか?」
「どういうことですか?」
「世間では孤児院の子供が働いていると、店の品質が下がると嫌がる方がいらっしゃるので。」
「…………今後、働き口に困っている子達でカナルの目に入ったものどんな身の上でも働かしてあげて。品質がどーのとかここには関係ありません。お客様が神様であるなら、従業員は天使です。計算に困るならできるものが教えてあげなさい。態度が悪いなら他人のふり見てわがふり直せ。お互いがお互い気をつけながらも治していきなさい。お互いがお互い、支え合い協力出来る職場になるよう、協力し合いましょうね?」
そう言って微笑めば何故か拍手が起こる……私は首をかしげながらも残っていたデザートを食べていれば、次はキッチン担当の人たちを連れてくるカナル。
「こちらが、キッチンのリーダー、リシャードと副リーダーのカデルとミチルです。」
そう言ってカナルが紹介したリシャードさんは、かつて家にいた料理長のリシャード・ドルナードさんだった……驚いて言葉が出ない私にカナルやリシャードさんだけではなく、お父様とお母様までニコニコしている。副リーダーの2人が軽く挨拶し、キッチンに戻っていくのを見送りながらも、コック帽を脱ぎ頭を下げるリシャードさん。
「お久しぶりでございます。お嬢様、リシャードは、お嬢様の考えたデザートに惚れ込み、こうして、お嬢様が考えたデザートを作ることが出来るカフェのパティシエに転職させて頂きました。もちろん、御屋敷でもお嬢様の考えたデザートは作ることができます。ですが、お嬢様の考えたデザートをもっと多くの人々に知って、食して貰いたく、こうしてここではたらかせて頂いております。」
そう言って私を見るリシャードさん。リシャードさんの目は不安に揺れながらも、(私が広めた)本物のパティシエの目をして、ギラギラと輝いている。
「貴方は私後雇っていた訳ではありませんもの。お父様が貴方の転職に納得し、カナルが採用したのなら、私が口出しできることはありません。だから、私が考え、貴方が作るデザート思う存分広めて差しあげなさいな。」
定期的にレシピを送るわね?と微笑めば何故かリシャードさんの両手で私の両手を握られ暑く握手されたのだった。