悪役令嬢になりきれませんの。
舞踏会?いえ、これは武道会。ダンスは戦いですよ。令嬢
国王陛下の挨拶により本格的にパーティーが始まり、ホールには緩やかな音楽が流れ食事などが無い場所の中央があいてダンスがはじまる。
そうそう、国王陛下が学園のパーティーに参加してない年は学園長が挨拶するんだって。なんて、どうでもいい事を考えていれば隣にいたマネラルが息をのみ、私に隠れるように私の肩を叩く。
「シャルネラ見て、ララルバ宰相、次男のアナワ・ララルバ様がいらっしゃるわ……お兄様のハーネル様が参加していらっしゃるパーティーにはいつも参加されないのに……」
ふむ。と、言うか国王陛下も宰相様も各部隊隊長様もよく、年子を産めたものだよね。計算妊娠ですか?なんて思っていれば宰相の次男坊がこちらに歩いてくるのが見える。
「アラマスカルフ。マルフィード嬢。」
「アラマスカルン。ララルバ様。」
あれ?私、この人に品定めされてる?従兄弟……だよね?や、でも、ララルバ宰相殿の息子さんだし……どちらかと言えば長男より次男の方が宰相殿に雰囲気が似ている。私の背後で震えているマネラル。私はジッと見られひきつりそうになる顔を何とかたえながらお母様に仕込まれた極上の笑みを浮かべる。それに、フッと笑う次男坊殿。
「マルフィード嬢。お名前で呼んでもよろしいですか?」
「では、私もアナワ様と。」
にっこにこで微笑み合う私たちに周りが何故か頬を染めコソコソと何かを話してるのが聞こえてくる。
【見てください……あの美しいおふたり……憎めない美男美女ですわ】
【まぁ、王太子殿下よりもララルバ宰相の次男のアナワ様がマルフィード嬢にふさわしいのではないでしょうか……】
【ですが……ねぇ?】
【えぇ。残念ですわ……美しいのに……】
権力とかそういうのを気にしてそうだ。なんて、横目に微笑みあっているとアナワ様が私に少し腰をかがめ手を差し出してくる。
「シャルネラ嬢。私と一曲踊っていただけますか?」
「…………えぇ。喜んで。」
ちゃんと聞いてきたよ。語尾もちゃんと疑問形で終わらせたよ。けど……目は口ほどに物を言う。目が断ることは許さない。と告げているではないか……断るにも断れず私はニッコリ微笑んで答えてしまった。
そんな私にアナワ様が微笑み私の手を取ってダンスの輪の中心に移動し、曲とともに動き出す。
最初はゆったり曲に乗せて。そう、曲はゆったりとしたもののはずだったのに。何がこうなったのか、アナワ様がダンスのレベルを上げていく。その度に曲のテンポも早くなって、次々と輪の中から踊る人がいなくなり、しまいには私たちしかダンスを踊る人がいなくなった。
「アナワ様、少し早くありませんこと?」
「……申し訳ありません。従兄弟と踊れて私も少し浮かれてまして。お疲れでしたらテンポを遅くしましょうか?」
「……いえ、結構です。まだまだ余裕ですわ。」
「あぁ。そういえば、貴女がとある令嬢をいじめていると。耳にしたのですが?」
「あらいやですわ。根も葉もない噂を信じていらっしゃるの?聞く前に己の目で確かめてはどう?嘘か誠か、その辺のご令嬢にお聞きしてみては?」
あぁ、従兄弟殿の【これぐらいでお前はヘタレるのか?】なんて挑発的な目で見られ、私の淑女魂に火がつく。疲れを見せず、遅れを取らないように。そして、【嘘か誠か確かめもせず、秀才だと言われている貴方は噂を信じるの?】と従兄弟殿の質問に自分なりの嫌味でかえす。ダンスを踊っているうちに私の腰で結んでいた紐が解けたのか。足元にフリルが広がる。そう、このドレス一枚で2度美味しいドレスなのだ。
クルクル回るたびにふわっと広がるレース。まるで蝶のようだ。なんて、レースを踏まないようにとレースに気を取られていたらステップを踏み外し形を崩しそうになった。そんな私にアナワ様は微笑み支えてくれる。それと同時に曲が終わる。
最後の最後で負けた……。
そう思っていればホール全体から拍手が巻き起こる。
「シャルネラ嬢。今宵はとても楽しい時間をありがとうございました。」
「いえ、こちらこそ。」
お互いが微笑み合う。結構激しい動きをしていたにもかかわらずお互い息が上がってないということはお互いの息があっていたということになる……
「来年、この学園に私たちは入学します。ですからシャルネラ嬢。その時はどうぞ仲良くしてくださいね。」
「えぇ。楽しみにしております。その時に、噂のことも分かるといいですわね?」
意味深な言葉を聞きながらもお互い一礼してダンスの輪から抜ける。彼は真実を周りの令嬢に聞くことも無く姿をくらました。そんな私にマネラルが駆け寄ってきて私に凄かった!と感想を教えてくれたが……私は正直。
「マネラル~!オミズゥ~~疲れたぁ~~もう無理!椅子、椅子をちょうだい!」
なんて、体力の限界を訴えたのだった。