悪役令嬢になりきれませんの。
おすすめは限定商品でございます。令嬢







舞踏会ももう少ししたら終わるらしく、1人、また1人と帰っていく人が目立ち始めた頃。マネラルと別れ、お母様に連れられVIPルームに連れてこられた。







「アベスティーナです。」







「どうぞ、お入りください。」







部屋の中からメイドさんが出てきて私たちを中に招く。お母様、私、お父様の順で入り国王陛下、王妃殿下、宰相様に挨拶をする。








王妃殿下にソファーを勧められるままソファーに座り、私たちの前に紅茶が置かれる。私たちの前には国王陛下と王妃殿下が2人がけソファーにならんで座り、国王陛下の背後に宰相様が立つ。私はお父様とお母様に挟まれるように座る。








「早速ですが、シャルネラ。アベスティーナが着ているドレス、私も着たいのです。今回のパーティーで買おうとした人は多いでしょう。何日たっても構いません。私にもそれを売って下さらない?」






あの凛としたあまり表情を出さないと言う淑女中の淑女の国王陛下が眉を下げて私を見ている。けどここは……商売の場だよね?ならふっかけてみるか?







「ありがとうございます、王妃殿下。王妃殿下が仰った通りありがたいことに、このドレスたくさんの注文を寄せていただいております。」






「そうでしょう。一度に二度美味しいドレス……売れること間違いなしだわ!」






手を合わせうっとりとする王妃殿下。それに苦笑する国王陛下をチラっと見みてから、私は肩と眉をがくんと下げる。それに不思議そうにする王妃殿下。






「ですからこのドレスを王妃殿下にお売りすることはやめておきたいのです。」






「なんですって!?」





「シ、シャルネラ嬢!?それはどうしてかな!?」









王妃殿下は無表情になり、国王陛下が慌てて前のめりになって私を見てくる。両親は無言で私達を見守っている。宰相殿は無表情で私を見ている。






「私は、王妃殿下に珍しく、そして扱いにくいドレスを送って差し上げたいのです。」





「珍しく……扱いにくいドレス……」






私の言葉をぽつりと繰り返す王妃殿下。私はにっこりと微笑みこうなることを予想して予め私のダメ絵を書き直してもらったデザインを机に広げる。







「これは……あなたが着ているドレスと何ら変わりはないではありませんか?」





「いいえ、よく見てください。私のドレスは膝元でレースが広がらないよう、リボンのように結んでダンスのときに結び目が解ければ膝元からふわりとレースが広がり窮屈感はありませんでした。が!今回、王妃殿下におつくりするこのドレス。上から下までぴっちりとしているのですよ。」







もちろん、膝元から下はふんわりとわさせているがそこまで広がらないのだ。







「淑女の鏡、王妃殿下だからこそ着こなせると私は思っており、何より王妃殿下に一番最初に着ていただきたいと思っております。」







無言の王妃殿下に私は眉をさらに下げる。淑女としてだらしない顔だろうが今は商人のシャルネラなのだ。






「もちろん……これは私の願望なだけで、王妃殿下がこちらのドレスをお望みであらば直ぐに作らせますが……あぁ、珍しく、扱いにくいドレスをこの国1番素敵な王妃殿下に来て欲しかった。このドレスも残念でなりませんでしょう……」







どうだ、これ以上のセールスは無理だ!お安い口説き文句だけど伝われ~!なんて思ってれば、王妃殿下が私を覗き見てくる。







「このドレス、お店に並ぶのかしら?」





「いえ、王妃殿下が購入してくださり、数ヵ月後に開催されるパーティーで着てくださったらきっとこのドレスも予約が殺到するでしょう。ですが、私とてこのドレスは王妃殿下だけに着ていただきたいと思っております。ですが、それだと商売はできません。王妃殿下にお許し頂けたら、記念に先着十名様限定での販売をと考えていたのですが……」






「…………」






「さらに、色は二色。例えば白と黒しかない場合に王妃殿下が白をお選びになったら先着十名様には黒を販売する。という形で、ドレスはこの国に十一着存在しますが、王妃殿下が選ばれた色のドレスはこの国に一着しか存在しない。と、言うことになります。」




「この国に一着……私だけの色…………」







あれ?安っぽい口説き文句で、揺らいでくれるの?宰相殿も国王陛下も何も言わないけど、私の口説き文句で売れちゃうの!?








「買うわ。シャルネラ、私に作ってちょうだい!!色は何があるの?」






色は………と、ドレスと色の説明をして、いつ、寸法などを測りに来る。とかとか打ち合わせして、その日は満足気な王妃殿下に見送られ学園から出ようとした。







その時…………










「シャルネラ嬢。」






「はい?」






母以上に冷たく見える宰相様に私は呼び止められ、お父様たちも足を止める。








「こんど、我が家に妹と遊びに来るといい。妻もシャルネラに会いたがっていた。」






「っ!?」






「まぁ!お兄様ったら……シャルネラちゃんに会いたがっていたのはお兄様も、じゃなくって?」







なんて、くすくす笑うお母様に宰相殿は顔を背ける。私はそんな宰相殿に優雅にお辞儀する。








「ララルバ公爵。お誘いありがとうございます。こんど、母と共に伺わせていただきます。」






そう言って微笑めば、宰相殿は私を見てからため息を着く。そして、メガネをクイッと上げてから背を向ける。






「私はお前の伯父なのだ。公爵などつけなくてもいい。」







その言葉とともに去っていくライバ伯父様にくすくす笑うお母様とお父様。私はキョトンとしてその背中を見送ったのであった…………





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