同じ日が暮れて、違う星が落ちる
十五分程歩くと、目の前に土手が現れた。

すっかり辺りは暗くなっていて、街灯の光がぽつぽつとその足元を照らすだけだ。
少し躊躇ったが、土手を上る足に力を込める。



あの夜、しばらく抱き締め合った後、お互い照れ笑いを浮かべた。
『もう終電ないな』と彼が呟いて私の手を引いて階段を駆け降りた。
どこまでもどこまでも走れそうな気持ちだけはあった。
そして、この土手まで二人で走った。

『こんな息が切れるなんてもう年かなぁ』なんて笑った私の先で、彼は土手の上に立って向こう側を眺めていた。

暗い中でもその影が私の上に重くかかっていたから、あぁ土手の向こう側は明るいのかなと思った。

『向こう側の夜景すごい綺麗だよ。……あ、そういえばあの先輩、あの辺に住んでるって言ってた』

そう他愛ないことのように彼が言ったから、私は『あの辺』がある土手の向こう側を見たくなくてその場に立ち尽くした。

彼は割りとすぐにこちらを振り返って降りてきて、私の手を取って歩き出した。
私は少し見上げて、彼の向こう側にたくさんの星を見ていた。

そして、最寄り駅近くのチープなホテルに泊まった。

私は彼だけを見ている、彼も私だけを見ている。
それなのに、脳内にこびりついた彼女の微笑みと曇った表情が交互に浮かんできた。

どうしても彼が欲しくて、私だけのものだと思いたくて激しく求めているのに、求めれば求めるほど俗なものになっていく焦燥感をどこか感じていた。


それから徐々に、彼は大学の研究が忙しくなって、私が彼の最寄り駅に行くことが多くなった。
それでいいと思っていた。
嬉しさと寂しさが同居しているから、なんとなくあの駅で会うことは避けていた。

そしてそのうち、『会いたいね』と言っても『そうだね』としか言ってくれなくなった。
会いたいと言ってくれているのと同義なのに、私は『じゃあ、会おうか』の方がよっぽど嬉しかったのだなと気付いた。

一ヶ月に一度、例の飲み会に参加してから彼の部屋に泊まって抱き合う。
何か特別ケンカをした訳でも、気まずくなった訳でもない。
彼女と仲良くしないでと嫉妬をあらわにすることもない。

それでも、何かが変わっていった。
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