同じ日が暮れて、違う星が落ちる
土手の斜面が急すぎて足を滑らせる。
よく見えないが、ワンピースが泥だらけになって膝辺りが破れている気がした。

彼がかわいいねと言ってくれたワンピースももうだめだ。

土手の上にやっとたどり着くと、私は目線を前に向ける。
目の前には人工的な夜景が広がっていて、その光のせいか夜空に星は見えなかった。


星が落ちてしまったみたい。


そう言ったら、彼は同意してくれるのかな。

夕陽に染まった私たちは、時が変わったら同じ色でいられないのかな。


ブーブーと携帯電話のバイブが鳴っている。
画面を見ると、彼の名前が映し出されていた。

「もしもし」

「今どこにいるの?」

心配そうに問いかける彼の声の後ろで、いろんな人の声が乱れていた。あの彼女の声も聞こえたような気がした。

「会いたくなっちゃった」

そう口にすると涙がこぼれそうになって喉が鳴った。
彼が息をのむ音が聞こえた。
そして、外に移動したのか聞こえるのは彼の声だけになった。

「来れば、会えるよ」

「いや、行かないでおく」

「じゃあ、先に俺の部屋に行ってていいよ」

彼の声に苛立ちを感じたけど、彼もまた、私が来ないことに対してではなくて何かわからないものに苛立っている。

「もう行かない」

「……今どこにいるの?」

おそらく来てくれようとしている。
でも、『じゃあ、会おうか』と言ってほしかった。息を切らせて駆けよって強く抱き締めてほしかった。

「今から行くから場所教えて」

その声にはもう苛立ちはなくて、その代わり困惑しているようだった。
今さら、私から会おうかって言ってもよかったのになぁと気付く。
でも、きっともう遅い。

「ううん、部屋に向かう。待ってる」

彼の言葉を待たずに私は電話を切って、土手を転げるように滑り降りた。
下に着いた頃には、泥だらけで傷だらけで不格好になっていた。

その場に彼がいないことが急激に寂しくなって、胸が張り裂けそうになって左胸を押さえた。
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