先輩と私と美術室
「…美希が男子に笑いかけるなんて珍しいね」
「そう?」
そもそも男子と話す機会がないからなぁ。
普通に笑うと思うんだけど。
「うん、珍しい。だから一部の男子から高嶺の花みたいなこと言われるんだよ」
「は、なにそれ…」
初耳なんですけど。
あーでも、昨日も柏木先輩からそんなこと言われたなぁ。
「美希今日も美術室?」
「うーん、今日はいいや。一緒に帰る?」
「うん、帰ろ!」
カバンを肩にかけ、教室を出る。
「で、昨日のお家デートはどうでした?」
昨日の夜にも通話で話したけど、夜遅くであまり詳しく話せなかった。
「んっとね、やっぱり樹くんからはちゅーしてくれなかったぁ」
そう言ってあからさまにしょんぼりする玲奈。
樹くんというのが玲奈の彼氏さん。
私はまだあったことがないけど、玲奈いわく高1のかわいい系男子。
去年の10月に合コンで出会って、付き合い始めたのが今年の3月らしい。
当時高1と中3がどうやったら合コンで出会うんだよ、とツッコミを入れたいけれどガマン…。
2ヶ月と少し経ったのにキスもまだ1回しかしたことない、しかも私からだよっ?と愚痴を聞かされた。
「あぁ、もう!せっかく家族いない日狙ってお家デートにしたのにぃ…」
頬を膨らませ、もうっと怒る玲奈。
「彼女が年上だから、恥ずかしがってるとかじゃなくて?」
「うーん、そーなのかなぁ。年とか関係ないのにぃ…」
「まぁ、気にするでしょ」
今度はうーん、と眉間にシワを寄せ唸って考え始める玲奈。
恋愛経験の少ない私からしたら何も言えないから、口出しはこれくらいにしておく。
「あ、そういえば…」
「うん?」
「やっと柏木先輩がわかった」
「いまさら…?美希の他人の興味のなさ加減は侮れないわぁ。なに、遠目から誰かに教えてもらったの?」
「いや、柏木先輩と45分くらい話した」
「はぁ、話した!?そこら辺詳しくどうぞ」
ずいずいと近づいて来るものだから、昨日の放課後の出来事をザッと説明した。