先輩と私と美術室
「ほう…美希が人気者の柏木先輩とねぇ」
電車に乗り、席がちょうどふたつ並んで空いたのでそこに座った。
この時間、帰宅ラッシュ前だからか人が少ない。
「いやー、ね。成り行きっていうかなんて言うか…」
「連絡先とかは交換したの?」
「してない、してない。そんなおこがましい」
「おこがましいって」
だいたい1回だけしか話したことないのに、連絡先聞くか…?
柏木先輩が好きっ!みたいな人だったら遠慮なく聞くだろうけど…。
「モテる理由もよくわかったわ」
「イケメンだよねぇ。ま、樹くんか1番だけど」
さりげなく惚気を聞かされた。
樹くんにベタ惚れなのがよく分かる。
「あ、次で降りなきゃ」
「もう?はやいなぁ」
最寄り駅のホームに入る電車。
都心まではいかずとも、住宅街なので降りる人はそれなりにいる。
「じゃぁ、また明日ね」
「うん、ばいばーい」
人の流れに乗って電車を降り、改札を通り、人混みから避けて一息つく。
夕陽に照らされる空に雲が流れる。
家までの道のりをゆっくり歩き、コンテストに出すはずの絵のことを考えた。
何を描いたらいいんだろ。
風景、空、街並み、すれ違う小学生。
「…今まで、どうやって絵描いてたっけ」
自分が思うより追い込まれている気がする。
何もかもが納得しなくて。
比較的綺麗なアパートの鍵を開け、「ただいまー」と靴をぬいだ。
返ってくることはないのに。
カバンをほっぽりベットにダイブする。
キャンバスに囲まれ、油絵特有の香りが鼻を微かに擽る。
しばらくして、意識を手放した。