先輩と私と美術室
なんだか昇降口が騒がしい。
ネクタイからして3年と2年の男子が5、6人じゃれあってるようで…。
あまり男子女子関わらず集団は苦手で、先輩の影に隠れる。
「お、瞬。お前どこいたんだよ」
その内の1人が先輩に気づいて、手をあげた。
「美術室にいた。で、谷センに捕まったの誰?」
「イツキとショウとテルだってさ」
周りの数人の男子も柏木先輩に気づいて、軽く頭を下げたり、「よぉ」なんて言ったり。
「谷センに捕まるなんて、やらかしたよなぁ」
「部活何日か禁止になりますかね…?」
「いやー、それはさすがになくね?」
…私絶対場違いだよね。
私のことに気づいていないのか、どんどん話が進んでいく。
これ、勝手に帰っていいのかなぁ…。
「で、瞬。その子なに?お前、彼女いたっけ?」
どうしようかとあれこれ考えていると気づいていたのか、今気づいたのか、
1番最初に柏木先輩に声をかけた先輩が私を指さしながら首を傾げた。
「んー、さっき知り合ったの」
「あ!2年の坂井ちゃんでしょー?」
さ、坂井ちゃん…?
前髪を上げて、おでこを出している(たぶん)先輩に顔を覗き込まれて、硬直してしまう。
「はいはい、そんなに近づかない。びっくりしてるだろ」
柏木先輩が間に入って、距離をとってもらった。
「えー、瞬、彼女作る気ないとか言ってたのにー。あれ、嘘だったわけ…?」
「おまえ、人の話聞いてたか?さっき知り合ったって言ったはずなんだけど」
「えー、坂井ちゃんに告白されたとかー?」
「いやそれ、美希ちゃんに失礼だから」
「柏木先輩に春が来ましたかー」
「そういえば、おれ、柏木くんの彼女って見たことないんですけど」
「だってこいつ高1の頃から彼女作ってないからな。でも、中学の頃は途切れたことあるか?ってくらいいたもんなぁ」
「「その話、詳しく」」
「おまえらなぁ、いい加減にしろよ…」
次は柏木先輩の元カノ話で盛り上がってしまったようで、また帰るタイミングを逃した。
時計に目を向けると6時半過ぎになっていた。
特に用事もないから、別にいいんだけど…。
でも、会話に関係ないのにここにいるのも気が引ける。
柏木先輩のシャツをちょんとひっぱると、気づいたみたいで振り向いた。