ティラミスとコーヒーゼリー
遠征の試合のときは、気になっても見ないようにしている。ゲームが勝っても負けても、すぐに顔を合わせられないのが悔しいから。
でも、夜9時を過ぎたころ、テレビをたまたまつけたら、プロ野球の中継が映り、しかもちょうどヒーローインタビューをしているところだった。
「放送席、放送席。そして、お越しのファンのみなさま。
こちらに本日のヒーロー、猫田選手に来ていただいています。」
…あ。勝ったんだ、佑くん…
今日のスタメンの9番は、猫田佑。
2点ビハインドの6回に3盗を決めたこと、そして9回での勝ち越しのチャンスに2点タイムリーヒットを打ったことでヒーローになったようだ。
「猫田選手、今日は大活躍でしたね」
「ありがとうございます。今日来てくださったファンのみなさんの応援があったからこそ勝てた試合だと思います」
「6回に見せてくださった、3塁への盗塁、おみごとでした」
「ギリギリセーフっていう感じだったので、ホームに生還させてくれた神野のヒットにも感謝したいと思います」
…佑くん、めちゃくちゃ律儀にインタビュー返答してるな…
彼がヒーローインタビューとして、呼ばれることは今までに何度か見たことはあったけれど、それは本拠地で複数人呼ばれるからこそできることだと思っていた(彼には失礼かもしれないけれど)。
本拠地ではない、遠征先での、ヒーローインタビューだからこそ、真面目になっているのかもしれない。
「それでは、猫田選手、最後に一言、よろしくお願いします」
「明日も来てくれるファンのみなさんはもちろんですが、
東京で待ってくれているひとがいるので、明日も勝てるようにがんばりたいと思います」
…っ、佑くん、いまの……
東京で待ってくれているひと、という明らかな意味深な言葉で締めくくった彼のインタビュー内容に、テレビ画面の向こう側がざわつく。
「…えっと、失礼いたしました。
本日のヒーローは、猫田選手でした。ありがとうございました」
苦いコーヒーゼリーには、ミルク増しで。
もうすぐわたしの旦那様になってくれる彼は、高校時代からのヒーロー。