太陽に抱かれて
「これ、どうやって描いたんだろう」
ももは、常と変わらず雑多なアトリエで一枚の風景画を手にした。
男が連日描いているセーヌ河畔を一望する風景ではなく、川の水際を描いたものだった。
「水が、透き通ってる」
陽射しを浴びる水面はさることながら、砂利の敷き詰められた陸地がだんだんと水に侵食される渚を見事に描いている。
どうやったら、こんなふうになるのだろう。ももには不思議でたまらなかった。
水の下にたしかに砂利がある。それぞれ別々に存在しているのではなく、たしかに重なっているのだ。
その行程は微塵も思い描くことができない。だが、男がこれを描いている姿を想像するだけで、心臓がどくどくと速くなった。
喉元になにかが迫り上がるのを、ももはぐっと唾を飲み下して耐える。
「きれい」
熱の篭った吐息を漏らしながら、そっと透き通る水の上をなぞった。ざらりとした感触が指先をくすぐって、それは思いのほか胸を満たしていた。
——まるで、あの筆先に触れることができたように。
ももは絵画を元の場所に戻す。と、なにかがカンヴァスに当たった。
あ、と思ったのもつかの間。静かなアトリエに、ガタン、と重い音が響いた。