太陽に抱かれて
かさ、かさ、と紙を擦る音がする。いまにも風の音に混じってしまいそうな微々たるそれは、シモンが煙草を巻く音だ。
パンオショコラにコーヒーといういかにもフランスらしい朝食を終え、二人は丘へと出ていた。
はじめてここに訪れたときは緑色の海が広がっていたというのに、いまはもうほぼ一面小麦色に染まっている。その小麦色の海原に、木製のイーゼルと男がぽっかりと浮かんでいた。
写し紙みたいな薄い紙に茶色い葉っぱジャグを載せて、それをこぼさぬように慎重に巻いていくという光景はスクリーンの中で何度か見たことがある。日本では見慣れない、巻煙草というやつだ。
彼は好んでそれを吸っているようだった。一日に、二回から三回。製作に夢中になっているときは、まるきり吸わないこともあった。ちなみに、それ以外にほかの煙草を吸っている姿は見たことがない。
斜め後ろ、絶好の特等席から、ももはシモンを眺める。
太い指先で器用にジャグとフィルターを紙の中に封じ込め、唇に咥えるとライターで火をつける。
その一連の動作は、無愛想なシモンの顔をいかにもそれらしく彩るに値した。