太陽に抱かれて
「マドモワゼル」
だしぬけに呼ばれて、ももは睫毛を瞬かせながら、ウィ、と返事をした。
「どうして、ここへ?」
創造主の頭の中は、複雑に入り組んでいるようだった。不意に、それこそ本当に予期せぬところで突拍子もない問いを投げかけられるのだから、しばしばどきりとさせられるももであった。
「あなたの絵を見に」
ももは答えた。
「そうじゃない」
間髪入れずに、シモンが言った。
ここ、と言ったのに、そうじゃないとは一体——どくどく、ももの心臓は不吉なうねりを上げ始める。
そんな彼女の様子もつゆ知らず、シモンはパレットから筆に色をとると、自ら創造した世界に新たな彩りを与えていく。
ザッザッ、均整のとれた音が響く。風が、ももの髪を攫う。
「フランスへ来た目的は?」
やがて、すべての音が止んだ。
たしかに風は吹いている。彼は、筆を動かし続けている。だというのに、ジヴェルニーの丘は静けさに包まれた。
「それは……」
重く、水底に沈むような静寂に、ももの細い指先が宙を彷徨い、やおら自らの腹部に辿り着いた。カラカラになった喉を潤そうとなんとか唾を飲み下しながら、ぎゅう、と薄手のニットを握りしめる。
頬にかかる髪も厭わずに、視線を落とすももをシモンは一瞥しようともしない。
ひたすら、カンヴァスに向き合い、筆を動かす。ももに向けられたその背は、まるで堅牢な城壁のようでもあった。
「ただの、バカンス、です」
締め付けられる喉をどうにか鳴らした彼女に、シモンはただ、そうか、とだけ言った。