立冬
嘘ばかりついてきた。

寒い、寒い。

寒くなくても言っていた。

北風は何も言わないが、吹いていた。

何が面白いでもない、何が可笑しいでもない。

けれど、笑っていた。

笑って見えたのはわたしだけかもしれない。

そうかしらん、っと彼の女は言う。

その女は美しい。

ちょうど異国の18世紀の王妃のように。

なぜかしらん。

わたしにはそう思えるのだ。

太陽はまわっていた。

地球も月も火星も、あらゆる惑星がまわっていた。

小学生が校庭で遊ぶように。

ドッチボールをしたかった。

鬼ごっこがしたかった。

缶蹴りがしたかった。

黙って教室で絵を描いていても良かった。

白い無地の罫線のない、
すべすべの自由帳に何でも描いてしまいたかった。

ゾウもシマウマもライオンも
恐竜も自分で想像して描いたモンスターも
HPがゼロになるまで描いてしまいたかった。

今のわたしはゼロだ。

しかし、少年時代のあの元気いっぱいのゼロではない。

何も描けないゼロになってしまった。

泥にまみれてわけがわからなくなってしまった。

苦しみを超克したのか。

弱くはないのか、強いのか。

片意地を張っているだけなんだ。

道端の雑草の寒そうじゃないか。

でも、それでも生えている。

それで良かろう。

これなら、これなら、生きていける。

わたしは珈琲が好きなのだ。

特にその香りが好きだから、飲むのだ。

構えちゃいけない、それは酒じゃない。

カフェインがあることなど、一切忘れてしまいたい。

珈琲にはアルコールなんてないんだから。

風がピューピュー吹いてら。

北風よ

北風よ

わたしは今ここにいるんだぞ。

眠いが眠らない。

眠いが寝ない。

やい、北風!

北風、やい!

わたしはいよいよ寒くなる。

着ぶくれに北風があたるんだ!

絡みづらいのか?

それなら、そうと言ってくれ!

わたしはまだ眠らんぞ。
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