ラヴシークレットスクール ~消し去れない恋心の行方
∫3:彼の中でのカノジョ
【∫3:彼の中でのカノジョ 】
「諒兄!!!じゃなかった。稲葉せんせい~おはようございます!」
「綾か。おはよ。早いな。」
「朝練。バスケ部も?」
「ああ、もうすぐウインターカップ予選だしなって、走るなって。」
体育館へ繋がる冷え込みが厳しい早朝の廊下。
白い息をかすかに吐きながら稲葉先生を追いかける蒼井の姿。
彼女のことを綾と呼び、振り返った稲葉先生の顔は
こっちがドギマギしてしまうぐらい優しかった。
「大丈夫だって!・・・って、ひやっ」
「怪我するぞ。そんな勢いで走って転んだら。」
「ちょっと・・・離して・・・・」
「イヤだね。怪我されたら困る。せっかくバレーをやる気になってるんだからな。」
多分、このふたりは気がついてない。
トロフィーや賞状が飾ってあるこの戸棚の陰に隠れてしまっているあたしの存在に。
でも蒼井を抱き寄せていたままの稲葉先生だけは気がついていた。
蒼井の後方に入江先生がいるってことに。
いつもは爽やか体育教師稲葉先生の挑発的な瞳にあたしは震えずにはいられない。
「諒兄・・離してくれないと。」
入江先生がすぐそこにいることに気がついていないのか
稲葉先生に抱きしめられている蒼井はなぜか冷静で。
「わかった。奈津江さんには言うなよ。オレ、出入り禁止になるのヤだからな。」
ニヤリとイタズラっぽく笑いながら蒼井の耳元でそう言った稲葉先生は
抱き寄せたままでいた彼女をようやく解放した。