ラヴシークレットスクール ~消し去れない恋心の行方
運がいいのか、それとも悪いのか、誰も通りかからないままの早朝の廊下。
校内一、二を争うと噂される人気男性教師が向き合う異様な光景にあたしは楽しむ余裕なんかなくて。
息を潜めるのが精一杯で。
「稲葉先生は蒼井の、担任ですよね?」
「ああ。俺の大切な生徒でもあるな。・・綾は、ね。」
綾と口にした稲葉先生を入江先生はじっと見つめた。
彼らしくない鋭い瞳で。
「じゃ、入江先生にとって蒼井は・・・」
逆に稲葉先生に問い詰められた入江先生の表情に明らかに焦りの色が見えたのはあたしだけではなかったはず。
いつも冷静な入江先生の
こんな横顔も見たことなんかなくて。
ひとりの女子生徒の存在がこのふたりの教師の間で揺れ動いているその時。
あたしは
「・・・大切な・・存在・・・です。」
入江先生が発したその重みのある言葉によって
私は蒼井に対して嫉妬心を抱く余裕すらないことを
イヤというほど思い知らされた。
そしてその言葉は
この時でなく
この時からずっとずっとあたしの心の中に棲み続け
あたしの片想いの恋の足かせになることを
この時のあたしはまだ知らない。