ラヴシークレットスクール ~消し去れない恋心の行方



「で、事前に言ってなかったんですか?綾は。」

「・・綾?」


稲葉先生の問いかけに対し、入江先生は目をしかめ、女性の名前を聞き返した。
そんな入江先生の表情の変化にも稲葉先生は怯むことなんてない。


「あっ、蒼井のことです。アイツ、兄貴の命日だから、朝一番に墓参りに行ってくるって昨日、言ってましたけど。」

「・・ボクには何も。」

「変な心配とかかけたくなかったのでは。1時間目には間に合うように来るからって言ってましたよ。」


蒼井の担任である稲葉先生は彼女の事情を知っていたようだった。


「・・・そうですか。」

溜息混じりにそう呟いた入江先生は稲葉先生に対し軽く会釈をしてその場を離れようとした。


「あっ、入江先生。アイツ、今日はそっとしておいてやって下さい。」

「蒼井に、何かあったんですか?」

眉間にうっすらと皺を寄せた入江先生だけでなくあたしも気になった。
稲葉先生にそっとしておいてと言わせた蒼井に何があった・・・のか?


「僕から部活の無断欠席についてちゃんと注意しておきますから。」

それでも稲葉先生はその理由を語ろうとはしない。


気のせいかもしれないけれど
あたしには稲葉先生が
“蒼井に気安く近付くな” と言っているように聞こえて仕方がない。


「・・お願いします。」

稲葉先生の丁寧な言葉を利用した見えにくい圧力は
あたしだけでなく
声を押し殺しながらそう答えた入江先生もちゃんと感じ取っていたようだった。
そんな入江先生の横顔はどこか寂しそうで。


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