岐阜のケーキ屋と車椅子少年。
「この人が……どうしたんだよ?」
「この人は、俺のフランス留学の時に同期だった奴だ。
今も連絡を取り合っている友人でもあるんだが
お前のことを話したら勿体ない、ぜひウチのお店で
修業をしてみたらどうだ?と言ってくれた」
えっ……えぇっ!?
それって翔馬君は、フランスで修業が出来るってこと?
思わない申し出に驚いてしまった。
それって……凄いことじゃない!!
「期限は1年。留学後は、製菓の専門学校に行き
資格を取れば問題ないだろう。
そいつの奥さんは、介護の仕事をしているらしく
車椅子などの扱い方や介護の仕方を知っているから
安心して任せられるからな。どうだ?
やってみる気は、あるか?」
「も、もちろんだよ!絶対に修業して
一人前のパティシエになってやる!!
よっしゃああ!!」
ガッツポーズをして喜ぶ翔馬君に私は、
涙が出るぐらい嬉しくなった。
良かったね……翔馬君。
留学に行くってことは、1年間離れ離れになる。
寂しいといえば寂しいが
それよりも翔馬君が明るく笑ってくれることの方が
私にとったら大切だった。
私は、彼女として心の底から応援したい……。
その事は、翌日に学校で村瀬君にも話した。
村瀬君は、夜に翔馬君が改めて謝罪と報告を受けたみたいで
その事は、すでに知っていた。
なんた……報告して驚かそうと思ったのに。
残念に思いながらもニヤニヤが止まらない。
「嬉しそうだな?良かったじゃん。
しかし寂しくなるなぁ~アイツが居なくなるのは」
「……うん。でも翔馬君は、今夢に向かって
飛び立とうとしているんだもん。
私は、それを全力で応援したい。彼女だもん。
それに……」
私にも新たな夢が出来た。
それは、奥底に眠っている小さな芽だった。
翔馬君に出会って……初めて気づいた芽。
きっと早く咲かせたくてウズウズしていることだろう。
翔馬君が留学するのは、春頃に決まった。
桜が咲く頃には翔馬君は、居なくなる。
しかし、それが嫌だとは思わなかった……。
少しずつ準備を始め
そして運命に待ち望んでいた春になった。
まだ桜は、咲いていないが冷たい風が少しずつ
暖かい風になろうとしていた。
私と皆は、名古屋空港まで見送りに行った。