岐阜のケーキ屋と車椅子少年。

「じゃあ行ってくる」

「翔馬君。元気でな!」

「翔馬君。向こうに行ってもしっかりね!
体調管理もだけど、具合が悪くなったら、ちゃんと
伝えてすぐに病院に行くのよ」

「分かっているって……心配性だなぁ~」

それぞれお別れの言葉を言う皆。
翔馬君は、笑顔で接していた。皆もだ。
お別れと言っても最後のお別れでもないし
希望に道溢れているのだ。笑顔で返したいのだろう。
私も何か言わないと……。

そう思うのに上手く言葉が出てこない。
こんな時でも自分の口下手さ加減に呆れてしまう。
すると翔馬君は、私の方を見た。
心臓がドキッと高鳴った。

「菜乃。俺……行ってくる!
次会う時は、もっと男らしい男になって戻ってくるからな。
その日まで楽しみにしていろよ?」

ニカッといつものように飛びっきりの笑顔で
私に言ってくれた。
初めて会った時と変わらない笑顔だ。
私は、嬉しさと寂しさで涙が溢れそうになる。
だが泣かない。笑顔で送り出すと決めたから……。

「うん。待っている。私も負けないように頑張る。
だからまた会おうね。翔馬君」

そして翔馬君は、飛行機に乗るとフランスに旅立った。
大きく羽ばたくために……。
小さくなっていく飛行機を眺めながら私は、
改めて自分の気持ちを確かめた。

大丈夫……翔馬君なら。
私も……頑張るから見守っていてね。

その後。桜が咲く4月になると私は、3年生に。
そして月日が過ぎて高校を卒業する。
私は、新しい道として製菓専門学校に入学した。
あれから私は、夢が出来た。

翔馬君と一緒に、これからもケーキを作りたいと。
そのためにも曖昧な知識よりもきちんと学び
ショコラで働けるような一人前のパティシエになることだ。
彼みたいな才能はないけど私も出来る範囲で
彼のサポートをしたいと思った。
それが今の私の夢だ。

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