岐阜のケーキ屋と車椅子少年。

もしかして……私のことを悪く言う人が居たらとか
知っている人に出会ったらとか
よくないことばかり考えてしまう。怖い……。

「大丈夫よ……菜乃ちゃん。
ここは、人情のある街だから」

祖母は、私の心を見透かしているよう
そう言ってきた。人情のある街……?
どういう意味だろうか?
私は、祖母の言葉を不思議に感じた。
しかし祖母は、ニッコリと微笑むだけでそれ以上は、
何も言わなかった。自分で確かめろという意味だろうか?

仕方がなくお茶を飲み終わると言われた通りに
ぷらぷらと散歩に出てみることにした。
東京に居た頃は、外に出るにも勇気がいた。
もし真由香に会ったらとか同じ学校の人に会ったら……とか
そればかり気にして怖かった。

でも今ここには、知っている人が
誰も居ない。真由香に会うこともない。
そう思ったら足どりは軽かった。

蝉が鳴いており、蒸し暑かった。
8月に入ったばかりだし本格的な夏だ。
大分歩くと昭和の雰囲気がある商店街に着いた。
中高年が多かった。ここは、何処だろうか?
キョロキョロしていると1人のお爺さんに声をかけられた。

「そんなにキョロキョロして
お店か何か探しているのかね?」

「あ、いいえ。何年かぶりに岐阜に来たので
散歩をしていまして……あのここは、どの辺ですか?」

恥ずかしい……もしかして不審者だと思われたかしら?
ビクビクしているとお爺さんは、ハハッと笑った。
何がおかしいのだろうか?
急に笑われたから驚いてしまった。

「そうか、そうか。何年かぶりに来たのか。
ここは柳ケ瀬だ。ここ最近は、若い者は名古屋に
行ってしまってね。人が少なくなったから
店も閉めてしまうとことろも増えてしまって
だから今は、盛り上げるために色々とやっているところなんだ」

そう言って教えてくれた。
柳ケ瀬なんだ……ここ。

「昔と今は、違うのですか?」

「あぁ、そうだね。昔は、高島屋だけでなく
映画館やお店が多くあってね。
もっと古い時は、新人演歌歌手とかが
歌いに来たもんだよ!
あの紅白に出た歌手なんて柳ケ瀬を歌にして
盛り上げてくれた」

懐かしむように話してくれた。
きっと凄く盛んで楽しい商店街だったのだろう。
いいなぁ……私もそんな頃を覗いてみたかった。

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