アンティーク
「いらっしゃいませ」
あれから何度か通い、ようやく今日彼がいるところに訪れることが出来た。
「あ…………」
彼は僕の顔を見ると、そんな声を出す。
短すぎる恋の最後の悪足掻きだ。
それがどういう風に動かなんて、やってみなければ分からない。
もしかしたら、僕の方へ風向きが変わるかもしれない。
「こんにちは」
「こんにちは。何か、お探しですか?」
「いえ…………玲奈にはもう、近づかないでもらってもいいですか?」
「……なぜですか?」
彼は表情を変えずに、あくまでここの店員として話をしているように見える。
「僕が彼女を好きだからです。音楽をやっている僕なら、彼女の痛みや苦しみも理解しやすい」
「そうですか…………」
本当は音楽とか美術とかそんなのは関係なくて、彼女を変えたのが彼だということくらい痛いほど分かっている。
彼女の顔に笑顔が増えて、だんだんと音楽学部の生徒と話をし始めていることも僕は知っている。
それはきっと、彼が彼女の心を溶かしたからだ。
「ごめんなさい、それは……無理です」
「どうしてですか?」
「あなたと同じく、俺も彼女が好きだからです。彼女は俺の外見で近づいてきたわけじゃない。俺と言う人間を見てくれている気がする。俺はそれに救われました。だから、彼女が拒むまでは俺は彼女の側にいたいんです。彼女には、愛想笑いじゃなくて、心からの笑顔で接することが出来るんです」
お互いがお互いを必要としていて、僕の入る隙間なんてないことが分かる。
これは、勝てない。