アンティーク
その玲奈の言葉は、僕の心を開かせて内に秘めたものを出させる。
「僕は……この通りですから。欲しいと思ったら手段も選ばない。昔からそうだった。でも僕はそれでいいと思っていた。だから、周りからは冷たい人間だと言われ、誰も僕に話し掛けなくなった。孤独になったんです。玲奈のようにたった一人の友達すらいなかった。悪口も言われない。僕は、そこには存在しない人間だった」
次々と昔の光景が僕の脳内に現れては消え、それはまるで泡沫のようだ。
「そんな僕はあまり明るいものを好まなくなった。曲も短調のものを好んで、好きなピアニストもどこか影のあるそんな音を奏でる人のばかりを聴くようになった」
僕は、一旦間を空ける。
「その時、玲奈の音を聴いた。そしてずっとそれを聴いていたいと願った。なのに、玲奈は変わってしまった。でも、僕は分かったんだ。それはきっと玲奈にとって運命なのだと」
「……運命?」
玲奈はその言葉を聞き返したが、僕は話を続けた。
「まあ、とにかく僕は、玲奈に対してひどいことをしてしまった。本当に、申し訳ない」
彼女はどうしてだろうか、僕の代わりに泣いているのだろうか。
「ごめんなさい」
なぜか僕に謝り、その細い指で涙を拭きとって、僕に笑ってみせる。
「クリスマス、一緒に過ごしましょう」
「でも…………」
「コンクールの前です。気なんて抜いてられません。それに、分かるから。私も同じだったから。そんな翼くんのこと1人になんてできません」
彼に悪いと思いつつも、僕はこの彼女の優しさにすがってしまった。