アンティーク
「それに、翼くんは冷たい人間なんかじゃない。本当に冷たい人間なら、いくら私の音が好きだからって面倒な伴奏、引き受けないでしょう?」
「それは……」
「翼くんは音楽、好きですか?」
「それはもちろん」
「ほら、ちゃんと心で感じてる。音楽を感じる心があるならきっと、冷たくなんてないです」
それは、僕の恋心を一気に大きくした。
やっぱり僕は、玲奈が好きだ。
この溢れる思いを今更仕舞うことなんてできない。
「翼くん」
僕は、彼女の身体を抱きしめてしまっていた。
強く強く、彼女が彼のもとに行ってしまわないように、しっかりとそのまだ冷たい身体を抱きしめる。
「お願い玲奈。やっぱりどこにも行かないで」
「翼くん……」
「僕、君が本当に好きなんだ。君と一緒に笑っていたいんだ」
僕はずるい、彼女がこれを強く拒否できないことを知っている。
それでも、僕は彼女を離したくない。
僕は彼女から腕を外して、その顔を見た。
大きな彼女の目が、僕を見ている。
その瞳に、僕の姿が映っている。
「……考えても、いいですか?」
それは、僕にとっては大きな前進でまさか彼女からそんな言葉が出てくるなんて想像していなかった。
「うん、もちろん」
彼女は首を縦に振ると、ぎこちなくヴァイオリンを用意し始めた。