アンティーク
風船のように
俺は初めて、玲奈さんに対して壁を感じずにはいられなかった。
いや、正確に言うと、『玲奈さんと彼』に対してだ。
演奏が終わった後のアイコンタクトは、完全に2人だけの世界で、お互いがお互いを心から信用していなければきっとあんな風に楽しそうに演奏なんてできない。
音楽にはド素人の俺でさえ、そう思ってしまう。
そのもやもやを抱えたまま、玲奈さんの演奏が終わって将生とロビーに行くと、彼女と彼がいた。
「こっちです」
彼は、俺の姿を見つけると腕を上げていて、一方の玲奈さんは丸い目でこっちを見る。
彼は、俺が来ることを伝えてなかったのだろうか。
「レオくんに将生さん」
「お疲れ。すごかったよ」
「いえ、そんなこと。私だけじゃきっとダメでした。翼くんの伴奏のおかげです」
分かっていても、そんな言葉を彼女の口から聞きたくない。
音楽をしている者同士の方が分かりあえる、あの言葉はきっとこういうことなんだ。
その言葉は正解だった。