アンティーク
バイトが終わると、俺は彼女に電話を掛けた。
『はい』
「玲奈さん、今どこ?」
『大学、ですけど』
「大学のどこ?」
『練習室です。翼くんと一緒に練習しています』
「出てこられる?」
電話の向こうで、2人が話しているのが聞こえた。
『…………はい』
「じゃあ、大学のカフェで待っててくれる?」
『分かりました』
電話を切ると、走って大学へと戻る。
全速力で走ったのは、久しぶりだった。
いつもより5分以上早く大学に着くことができた。
「レオくん」
「ご、ごめん、いき……なり」
息が上がって、うまく話すことが出来ない。
「大丈夫ですか?」
「うん、……大丈夫」
何度か息を吸ったり吐いたりしているとだんだんと息が整ってくる。
「…………どうしたんですか?」
「どうしても、聞きたいことがあって」
俺は、椅子に座る。
「なんですか?」
「玲奈さんの好きな人って、岡田翼?」
「それは…………」
「俺、音楽のこと何も知らない。だから玲奈さんが悩んでいる時とかアドバイスもできない。でも、側にいて玲奈さんを笑顔にしたいんだ、誰よりも俺が」
好き、という言葉じゃ伝わらない。
「私もレオくんの笑顔を見ていたいです。でも…………ごめんなさい、今は翼くんが好きなんです」