アンティーク

ピピピピピピピピ。

その音で、俺は一気に上半身を起こした。

そこは、ベッドの上だった。

「夢…………」

どこからが夢なのか、昨日彼女がアンティーク店に来たことは覚えている。

幻想かもしれないけど、彼女の頬に涙が伝っていたことも。

でも、結局小心者の俺はそのあと何もすることが出来なかった。

本当に、こんな自分が嫌になる。

とりあえず寝ぼけた頭を覚ますために、冷たい水で顔を洗うことにした。

手に水を貯めるていると、その冷たさが直に伝わってきてそれだけで神経は立つ。

その中に顔を入れると、想像以上の冷たさだった。

「はあ、俺……」

こんな不安定な感情を抱えているなら、早く伝えてしまった方が良いかもしれない。

初めは、その笑顔が見られるだけでよかった。

その笑顔に俺は心が軽くなれた。

なのに、今はもっともっとと求めてしまう。

どんどんと欲張りになってしまう。

たまにアンティーク店で会ったり、たまにどこかへ出かける関係じゃなくて、もっと近くにいたい。

もっと近くで、彼女の様々な顔を見ていたい。
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