アンティーク
将生は決して声を荒げることなく、むしろ穏やかにそれだけ言うとカフェを出る。
将生は知っている、レオが一番嫌いなことは、見た目だけで判断されることだと。
だから、将生は彼女達の会話を無視はできなかった。
その人がレオの知り合いではないならまだしろ、彼女がレオの知り合いだったから。
少しでもレオと関わりのある人が彼のことをそんな風に言うことを、将生は絶対に許せなかった。
心にもやもやとしたものを抱えながら美術棟の方に向かって歩いていると、後ろから名前を呼ばれる。
「将生さんっ、待ってください」
神崎玲奈が、小走りでこっちに向かっていた。
そして、将生の前で止まって息を整える。
気温が高いせいか、それとも走ってきたせいか、薄っすらと汗をかいていた。
「さっきのは誤解です。レオさんがかっこいいから、あの店に通ってるわけでもないし、近づいたわけでもないんです」
少し涙目の彼女、将生たちのやりとりを見る通行人。
将生は、その視線に耐えきれなくなりさっきのカフェとは違うカフェに彼女を連れて行った。
「私、昔から人の視線に敏感で。鈍感でのろまで、音楽漬けの私を見る周りの目が、大学に入るまでは冷たかった。だから余計に人の瞳の色を見ることに敏感になったんです。でも、レオさんと初めて会った時、すごく優しい瞳をしていた。だから、心地が良かったんです。だから、あのアンティークショップにも通うようになったんです。ごめんなさい、話、まとまってませんよね。でも、これは本当です、レオさんがかっこいいから近づいた、それは絶対にありません」