アンティーク
Ligne droite
玲奈さんは、そのあと、すみません、と言って足早に店を出て行った。
俺は、アンティークが並べられた空間に1人残される。
誰もこない店内。
広まる静寂。
じーっとしていると、ガラスに雫が当たる音が聞こえてきた。
「雨…………」
玲奈さんのさっきの表情の変化のタイミングは、将生の話をした直後だった。
動揺していて、何かを隠そうとしていて、でも悟られないように冷静さを保って。
俺だって恋くらいしたことはある。
だから分かる、その時の俺とそっくりだった。
雨でその視界がぼんやりとなっている窓から暗くなった空を眺めると、それに吸い込まれそうになる。
それはまるで油絵のように見え、それを描きたいという気持ちにも襲われる。
「空が泣いている…………」
違う、雨はただ空気が冷やされて水蒸気が水滴になって落ちてきただけ。
そう見えるのは、このどこにも行きようのない気持ちのせいで、自分自身が泣いているから…………。
自分の心が、雨という滴を涙と同化させて見せている。
空が自分に同情していると思いたくて……。